人気作家・有川浩の連作短編小説シリーズでテレビでも大ヒットした『三匹のおっさん』が、９月４日から明治座で上演中である。（27日まで。その後、名古屋・大阪・福岡・広島・高松で公演あり）
原作は08年より別冊文藝春秋で発表した同名小説で、還暦を過ぎた３人のおっさんが、市井にはびこる悪と闘うために私設自警団を結成。ご近所に潜む悪を次々と成敗していく。その結果、それぞれの夫婦関係や親子関係、関わった人々にも新しい展開があり、絆が強くなっていくという話である。
テレビドラマ版で北大路欣也が演じた剣道の達人キヨを松平健、泉谷しげるが演じた柔道の達人シゲを西郷輝彦、志賀廣太郎が演じた機械いじりの達人ノリを中村梅雀がそれぞれ演じている。脚本・演出は若手演出家として小劇場から商業演劇まで広く活躍中の田村孝裕が手がけ、テンポのいい現代劇に仕上仕がった。
オープニングは悪ガキ時代の三匹が学ラン姿で登場、それだけで場内には笑いが溢れる。不良たちとの対決シーンが始まると、それぞれ剣道、柔道、機械の力を発揮して、一気に悪を退治してみせる。アニメふうの映像とのコラボや効果音が効いていて、派手なアクションシーンが気持ちいいスタートだ。
悪には強い三匹だが、家庭に戻ればただの「おっさん」で、キヨは孫の祐希（大久保祥太郎）になめられっぱなし。生意気盛りの高校生と昔気質のキヨの掛け合いが、今どきの家庭の日常そのままで、松平と大久保の巧みなやり取りもあって客席は笑いの渦。二世帯住宅で暮らすキヨの家庭は、妻の芳江（竹下景子）と嫁の貴子（遠藤久美子）の折り合いが悪く、息子の健児（西ノ園達大）も嫁の尻に敷かれ、キヨの剣道道場をピアノ教室に建て替えようなどと言い出す始末だ。
一方、ノリは妻に先立たれ、一人娘の早苗（宮崎香蓮）を男手一つで大事に育てている。父ひとり子ひとりだけに、ノリはつい過保護になりがち。今日もスーパーに買い物に行くだけという早苗を、送っていこうかと心配する有り様だ。早苗を演じる宮崎が清楚で可憐な雰囲気で、娘を目に入れても痛くない梅雀ノリの溺愛ぶりがリアルに伝わってくる。
そしてシゲは、永年営んできた居酒屋「酔いどれ鯨」を息子夫婦に譲って、今や悠々自適の隠居と思いきや、息子の代になってからのほうが売り上げもよくなり、すっかり意気消沈。張り合いをなくして妻の登美子（松金よね子）と喧嘩ばかりしている。西郷と松金がポンポンとやり合う口ゲンカの場面が、永年連れ添った夫婦ならではの応酬で、面白可笑しく見せる。
三匹が今回関わることになる事件は２つ。１つはノリの娘が被害者となる「痴漢事件」、そしてキヨの定年後の新しい勤め先「エレクトリックゾーン」で、店長の須田（河相我聞）がたびたび襲われる「強盗事件」。その２つの事件の犯人を「成敗！」するために綿密に計略を練り、果敢に行動を起こす三匹。それぞれの特技を生かして犯人を突き止め、見事「成敗！」するかっこよさはまさしくこの作品の見どころで、痛快そのものだ。
同時に、事件解決に三匹が奔走する裏では、それぞれの家庭に問題が起きていて、キヨの妻の芳江が家出したり、登美子が昔の同級生に誘惑されていたり、ノリの娘の早苗が事件のトラウマから不登校になったりというシビアな現実と、三匹はいやでも向き合わざるをえなくなる。社会の敵だけでなく、それぞれの家庭の問題と闘うことになる「三匹のおっさん」たちの、不器用で無骨で、だが真摯な闘いぶりが胸を打つ。
そんな１つ１つのドラマに、笑って、泣いて、フィナーレには三人の歌で客席も一緒に盛り上がるという、まさに爽快でエンターテイメントな舞台版の『三匹のおっさん』。三匹と同年代ならもちろんのこと、その孫世代のような若い観客まで、どこかで思い当たるシーンがあちこちに散りばめられていて、リアルで、だが夢のある作品となっている。
〈公演情報〉
明治座９月公演
『三匹のおっさん』
原作◇有川浩（「三匹のおっさん」「三匹のおっさん ふたたび」 ）
脚本・演出◇田村孝裕
出演◇松平健、中村梅雀、西郷輝彦／松金よね子、遠藤久美子、大久保祥太郎、宮崎香蓮、河相我聞、西ノ園達大／竹下景子 ほか（宮崎さんの崎は旧字でツクリは立と可になります）
●9/4〜27◎明治座
〈料金〉S席￥13,000 A席￥6,500／当日学割 S席￥6,500 A席￥3,250（全席指定・税込）
〈料金〉S席￥13,000 A席￥6,500／当日学割 S席￥6,500 A席￥3,250（全席指定・税込）
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666
●10/1〜8◎名古屋・中日劇場
●10/17〜31◎大阪・新歌舞伎座
●11/5〜26◎福岡・博多座
●11/28、29◎広島・はつかいち文化ホール
●12/1◎高松・アルファあなぶきホール
〈ＨＰ〉http://www.meijiza.co.jp/info/2015_09/
【文／榊原和子 写真提供／明治座】
●10/17〜31◎大阪・新歌舞伎座
●11/5〜26◎福岡・博多座
●11/28、29◎広島・はつかいち文化ホール
●12/1◎高松・アルファあなぶきホール
〈ＨＰ〉http://www.meijiza.co.jp/info/2015_09/
【文／榊原和子 写真提供／明治座】
